AIヒューマノイド テレサ第一話
2027年春、私はとある企業内にあるラボに居た。
ここで何を研究しているのかと言うと、ヒューマノイド、すなわち人間形のAIである。
AI自体のクオリティはかなり進化したが、それを組み込むハードケースがなかなか人間には近づかず、研究者一同苦戦しているのが現状であった。
松本「なあ、そろそろこの辺りを妥協点にしていいんじゃないか?」
私「表情や仕草はいいんだけど、まだ肌の質感…艶、色、手触りが至ってないよ」
松本と私は大学からの付き合いで、最初はお互いロボット研究のサークルで知り合った。
今は大学の教授をやりながら私の研究を手伝ってくれている。
私が求める無理難題をなんとかして実現してくれる良きパートナーだ。
松本「やはりここの研究所のリソースだけじゃ限界があるな…、他のチームはどうなんだ?」
私「私から見て我々のチームが全ての面で突出してると思う」
松本「そろそろクライアントとの期限も迫ってきてるから、どこも追い上げてきてるんじゃないか?」
私「確かに…まあ後は"肌の質感"だけクリアすればコンペでは勝てると確信してるよ」
松本「肌の質感ねぇ……あ、そうだ、その辺りはアウトソーシングしてみてはどうだ?」
私「どんな分野に依頼するんだ?」
松本「ちょっとメールしてみるよ」
何かを閃いた松本は、とある専門のメーカーに連絡をした。
そしてそのメーカーからすぐに返信が来た。
松本「なあ、今から時間あるか?」
私「ああ」
松本「じゃあちょっと出るぞ」
軽い身支度を済ませて、松本と私はラボの外へ出た。
松本「ちょっと車とってくるから待ってて」
そもそも大学時代はロボット工学に興味があり、工場などのロボットアームの効率化を追求する事に興味があった。
だが、資本のある海外の大学相手では、とても勝ち目が無い事を知った瞬間から、工業系ロボットへの興味を失った。
それが何故今の仕事に就いているのかはまた後に話したい。
松本「お待たせ、じゃあ行こうか」
私「どこへ?」
松本「専門のメーカーだよ」
私「専門…メーカー…?」
松本「さあ乗った乗った!」
私と松本は車で1時間ほどかけ、その専門の業者へと向かった。
ナビ「ポーーン♪目的地に到着しました…」
松本「ここだ」
私「ん?Yours?」
松本「ここの広報担当とアポ取ってあるから、さあ入ろうか」
私と松本はその業者のビルの中に入っていった。
受付「いらっしゃいませ、ご予約の松本様ですね、今担当の玉木をお呼びしますので、そちらにお掛けになってお待ちください」
私達はビルのロビーにあるソファーに腰掛けた。
それから程なくして広報担当の玉木さんが現れた。
玉木「お待たせ致しました、広報担当の玉木と申します」
やや痩せ型のきれいな女性だった。
私も挨拶をし、お互い名刺を交換した。
松本「急なお願い申し訳ございません」
玉木「いえいえ、弊社としましても非常に興味深いお話でしたので、善は急げと思いまして…」
私「ありがとうございます」
玉木「ではさっそく製品をご紹介しますので、ショールームへご案内いたします」
松本「お願いします」
私達は玉木さんと共にエレベーターに乗ってビルの5階へと向かった。
エレベーターの扉が開くと、その階全部がショールームになっていた。
玉木「こちらが弊社の製品、YDollとなります」
そのショールームには何十体もの人形のようなものが展示されていた。
玉木「こちらは全てラブドール、昔で言うダッチワイフです」
松本「これこれ!」
私「ラブドール?」
松本「話には聞いてたけど、かなりリアルだなぁ〜」
玉木「弊社のラブドールは開発から生産まで国内でとり行っております。さ、どうぞお手に触れてお確かめください」
何十体ものラブドールはどれも生身の人間とまったく変わらない完璧な質感を再現していた。
私「こ…これは……💧」
松本「なあ、どうだ?」
私「ああ…完璧だよ……」
玉木「お気に召されて良かったです、弊社の代表もご挨拶したいと申しておりますがいかがでしょうか」
松本「もちろん喜んで!」
私「よろしくお願いします」
我々はビルの最上階へと向かった。
エレベーターを降りて正面に社長室があった。
「トントン」
弓月「どうぞお入りください」
松本「失礼します」
私「失礼します」
弓月「いやぁ、この度はわざわざおいでくださりありがとうございます、私、弓月と申します」
私「弓月さん、急なお話で申し訳ございません」
弓月「お話は伺っております、弊社のYDollにAIを組み込みたいとおっしゃられているとのこと」
私「ええ、今御社の製品を拝見させて頂きましたが、正直驚いています」
弓月「いや、元々は私の叔父が作った会社なのですが、5年前に他界しましてね、ただ扱っている商品が商品ですので後継者として考えていた実の息子達、私の従兄弟ですが彼らも会社を受け継ぐ事を拒みまして…」
松本「そうだったのですね」
弓月「私はまったくの畑違い、IT関係の仕事をしていたのですが、叔父の奥さん、叔母から相談を受けて私が引き継ぐ事になった次第です」
私「これらのクオリティ高い製品は創立者の方が作られたのですか?」
弓月「そうですね、叔父の世代でほぼ今のクオリティに近づいていたのですが、亡くなる直前まで満足はいって無かったようで…」
松本「それを弓月さんが現状まで引き上げた、という事ですね」
弓月「まあ、そう言われるととお恥ずかしいですが、そうだと自負しております」
私「素晴らしい……弓月さん、ぜひ御社の製品と私の研究所とコラボレーションさせて頂けないでしょうか?」
弓月「このお話を頂いて、またひとつ叔父の夢に近づく事ができる…そう確信しました。もちろん喜んでお受けいたします!」
こうしてユアーズ社と私達のチームとで、新たなAIヒューマノイドの制作がスタートしたのである。
つづく